六つの顔

2025.08.24

イベント

映画『六つの顔』公開記念舞台挨拶レポート

人間国宝の狂言師・野村万作を追ったドキュメンタリー映画『六つの顔』の公開を記念し、8月23日(土)に舞台挨拶を開催!野村万作、野村萬斎、野村裕基、犬童一心監督が登壇した、当日の模様をレポートとしてお届けします。

満員御礼で迎えた舞台挨拶。記録として自身の演技を残したいという思いで映画化を希望した万作は、公開初日を迎え「感想を聞くたびに、嬉しく思っています。(狂言を)知った方もいらっしゃるし、知らない方も映画を見て、感動したとおっしゃったくださる方もいるわけでございます。600年以上の伝統をもつ狂言の、しかも良い作品『川上』を取り上げたことの意義が十分にあったのではないかと思っております」と喜びのコメント。

映画化への想いについて犬童監督は、「万作先生がよくおっしゃいますが、自分たちのやる狂言は美しくなければいけない、そのあとに面白さとかがついてくると。万作先生と『川上』を映画に撮る以上、その言葉に準じた映画にしなければいけないと思って。できるだけ美しさを保ち、映画として『川上』を見て、面白さもちゃんと伝わるように心がけていました」と説明。さらに「万作先生のシルエットや佇まいをちゃんと画の中に残しておくということも物凄く心がけていました」と振り返った。

それを聞いた萬斎は、「(犬童監督には)リスペクトを持って撮っていただいた」と話すと、世阿弥の「老木の花」の言葉を引き合いに出し、「妙な手札を尽くすわけでもなく、自然体を撮る。老木に桜が咲くというのを究極の美というわけですけども、うちの父は、少なからずそういう芸境に入っている。観察者、犬童一心監督がそれを眺めているということが、この映画の在り方なのではないかなと思います」と映画の魅力を語った。

また、夫婦愛を描く狂言「川上」で、万作が演じる盲目の男の妻役を演じた萬斎は、「非常に静かな曲で、切り詰めて、省略の中で演じる。その日の父の感覚や動き、心の機微、そして(狂言は)ライブ・パフォーミング・アーツなので、お客さんとのコミュニケーション。そういった全ての塩梅を気にしながら、父が一番活きるように私もお相手させていただいた」と親であり師匠でもある万作と同じ舞台に立つ思いを明かした。

続けて万作は、ライフワークとして取り組み、磨き続けてきた「川上」について、「師匠、つまり父から習ったのがスタートですね。あとは、父以外の人と共演したり、例えば叔父と共演で女の役を演ることによって、また違った感想になっていくし、父と叔父の演り方を見ながら、その違いを生意気なりに研究していったんです」と述懐。「川上」が和泉流にだけ伝わる演目でもあることから、「それだけその曲を大事に演じていくべきであろうと思っているし、また同じ和泉流の『川上』の中でも、さらに派というものがあって、中身がちょっと違うんですね」と、先達たちから受け継がれてきた演目への思いを語った。

人間国宝で、祖父であり師匠でもある万作を日頃から近くで見ている裕基は、万作について「気持ちとしては、僕と同い年ぐらいでいたいんでしょうね。人に頼らないで普段から生活をなさっている。荷物を持つ時も、長い距離を歩くときも、人の手を借りずに、基本的に自分で全てをこなそうとなさるんです。当然、舞台の上でも妥協を許しません」と説明。「この映画を通して、自分は94歳のときどうなってるんだろうと考えてしまいました。生きているかわかりませんけども(笑)」と冗談を交えながら尊敬の言葉を表した。

挨拶の最後に万作は、「このような晴れがましいことは人生で2回目です。1回目は、ご存知でしょうか。インスタントコーヒーのテレビコマーシャルに出たこと」と話すと、会場からはどっと笑いが。「ネスカフェ ゴールドブレンド」の人気CMシリーズの9代目として出演していたことに触れ、「我々、狂言の人間が、コマーシャルに出た最初だと思っています」と話すと、隣にいた萬斎が「“違いがわかる男”ね」と補足。さらに、締めの言葉に裕基から「当たるといいな」と、完成披露の際の万作が言った言葉を勧められると、万作は「当たるといいなでは、何度も言うとちょっと下品ですから…。“当然、当たる”と思います」と笑顔で宣言。会場は拍手喝采に包まれ、大盛況で幕を閉じた。映画『六つの顔』は、シネスイッチ銀座、テアトル新宿、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開中。

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